2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20530041
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
森田 章夫 法政大学, 法学部, 教授 (30239652)
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Keywords | 国際法 / 海洋法 |
Research Abstract |
本年度も、引き続き、国際法上の海賊の法的性質の解明に関する社会的要請が強く見られた。特に、本研究との関係で注目すべきは、海賊取締に対する普遍的管轄権の根拠をどのように捉えるかという点であった。本研究は、この点を、「海上交通(往来)の一般的安全」の保護と捉えたものである。しかし、依然として、(1)直接責任を負う「団体」が存在しないこと(「授権」(authority)不存在要件説)、(2)海賊は、いずれの国家の規制にも服さない海の「無法者」ないし「法外者」(outlaw)であり、それゆえいずれの国家もこれを保護する利益を持たないため、公海上で海賊に遭遇したいずれの国家の艦船が取締を行っても、国家間紛争が生じないことを根拠とする学説が、近時でも有力に唱えられた。 資料・文献の丹念な分析の結果、前者については、国連海洋法条約上、「私有の船舶」要件の問題であることが判明したが、特に後者については、まさに、法的または事実上の無国籍船舶の規制との異同が問題となるのである。本研究は、国連海洋法条約が臨検しか認めない「無国籍」船舶と、あらゆる管轄権を普遍主義に基づいて認める海賊行為の取締との異同は、重要と見るものであった。それを受けて、国連海洋法条約の規定方式をも含めて厳密に考察した結果、そのような船舶については、外交的保護権を「事実上」否定できるにとどまり、権利・権限としての普遍的管轄「権」を規範的には肯定できない点に問題を残すことが明かとなった。すなわち言い換えれば、事実上の「国籍性の喪失」という以上に、海賊行為の抑止・鎮圧を積極的に正当化する実体上の法益を論証することこそが、海賊取締に関して、権利・権限としての普遍的管轄権の根拠として必要であると考えられ、その意味でも、「海上交通の一般的安全」法益こそが、歴史的に見ても、規範的に見ても、その要求に応えられるものであることを明かにした。
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Research Products
(6 results)