Research Abstract |
本研究では,近年転換期を迎えている規制緩和のなかで,独占・寡占規制の在り方を,独占禁止法及び業法の観点から明らかにすることを究極目的としている.その際,国際的にも重要な地位を占めるに至っているヨーロッパの競争法を比較法的観点から検討の材料としている.本年度は,独占禁止法に基づく基礎理論に重点を置いている.まず,ヨーロッパ濫用規制の特徴的規定である,高価格濫用規制の現代的意義を明らかにすることを試みた.本規定は,我が国に直接比較しうる規定がないこと,しかしながら,独占,寡占的産業に対しては,可能な限り客観的な立場から何らかの高価格規制を設ける必要性があると考える.本研究では,ヨーロッパにおいて,とりわけ近年高価格規制の意義が見直されていること,近年の事例に基づけば,高価格設定を問題にするが搾取的な観点だけでなく,妨害的な観点を組み入れた点に現代的な意義が見いだされる. 次に,我が国の独占・寡占規制に関係しては,独占禁止法の私的独占・不公正な取引方法が役割を果たしていくと考えている.我が国との関係では,知的財産権に基づく有力な地位を利用した行為の独占禁止法上の評価が問題になった事例として,マイクロソフトの非係争条項に関する公正取引委員会の審決がある.これは,国際的に見て我が国のみ,競争法上の問題として捉えられており,知的財産権に基づくいわゆる濫用行為に対する我が国の厳格な運用を示したものと捉えられる.その他,支配的地位にある事業者の実施するリベートの問題が提起されたケースがあったが,我が国の運用では濫用行為の不公正性については詳細な議論・検討がなされていない。もっぱら,支配的事業者の行う行為で不公正であるという考え方に基づく運用が実際になされており,この意味では,伝統的なヨーロッパの運用方法と似ている。もっとも,ヨーロッパでは,濫用行為に関するガイドラインが公表され,新たな方向付けが示されている点が注目される。そこでは,濫用行為をより厳密に経済的分析を利用しながら評価しつつも,支配的地位の濫用行為に対して,従来の運用をさらに明確化した,一貫した法運用を支持する理論付けがなされている。 独占・寡占規制は,それぞれの経済社会の仕組みと関係づけながら議論する必要があり,さらに事例分析・ヒアリング等を実施する予定である.
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