Research Abstract |
本研究は,裁判員制度の導入をにらみ,捜査と公判の結節点たる「公訴権」を軸に,その在り方を研究するものである。 本年度は,証拠の簡素化と訴追水準を検討するための作業の一環として,「訴追のわかりやすさ」を実現するための理論的前提たる「訴因構成の在り方」を検討することとした。そのため,訴追の最小単位を追求し,罪数論との関係を含め,実体法と手続法との関係の在り方のダイナミックな連携関係を明らかにするよう努めた。 その結果,(1)公訴権の運用は,検察官の裁量に委ねられているが,その裁量の前提として理論的限界があること,(2)その限界は,実体法上の罪数論に大きく依拠していること,(3)一罪の一部起訴として従来から議論されている問題は,検察官の訴追裁量の限界に深く関わっており,一罪の一部起訴が理論的になぜ可能であるかを解明することが重要であること,(4)一罪の一部起訴は,実体法的には,結局,「分割不可分な一罪」の全部起訴の実態を有していること,(5)したがって,「分割不可能な一罪」こそが訴追の最小単位であり,これを前提に訴追の簡素化に関する議論を組み立てていくべきことなどを明らかにした。 そして,「分割不可能な一罪」こそが訴追の最小単位であるとすれば,科刑上の一罪はもとより,包括一罪,常習一罪など,緩やかな結合関係に立つ場合,さらには,法条競合の場合についてさえも,理論的にはその一部を取り出して起訴する可能性が認められ,その結果,訴追構成を簡素化するための理論的基礎を示すことができたのではないかと考えている。
|