Research Abstract |
本研究は,裁判員制度の導入をにらみ,捜査と公判の結節点たる「公訴権」を軸に,その在り方を研究するものである。 本年度は,最終年度であることから,「訴追の可否」を検討した一昨年度の結果,及び「訴追の当否」を検討した昨年度の結果を踏まえ,捜査及び証拠と訴追の在り方を検討するための作業の一環として,「訴追の前提」としての証拠収集の在り方,取り分け捜査における利益提供の可否について検討した。その結果,(1)捜査活動と利益提供とは必ずしも矛盾するものではないこと,(2)近時の裁判例の傾向に照らすと,これまで当然に許されないとされてきた利益誘導に当たるような方法によって得られた供述であっても,場合によっては許容される余地があり得ること,(3)そのためには,一定の法定権限を有する捜査機関が,その正当な権限の範囲内において,正当な内容の利益を確実に提供し,これに対応して,相手方が,自らの任意かつ自由な自己決定に基づき,提供可能な正しい証拠を提供することが必要であることなどを明らかにすることができた。 これまでの考察の結果,従来一般的に違法ないし不相当と言われてきた捜査方法についても,仔細に検討してみれば,なお適法ないし相当と評価する余地があり得ることを見出すことができたことから,今後とも,いたずらに外国の制度の導入のみに走ることなく,従来の捜査を改めて検討し直すことによって,そのような隙間を見出す余地があるものと考えている。
|