2010 Fiscal Year Annual Research Report
心神喪失者等医療観察法における鑑定の適正化および医療の必要性概念に関する研究
Project/Area Number |
20530058
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Research Institution | Josai University |
Principal Investigator |
柑本 美和 東海大学, 実務法学研究科, 准教授 (30365689)
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Keywords | 医療観察法 / リスクアセスメント / 他害の危険 / 強制入院 / 医療の必要性 / カナダ / PCL-R / HCR-20 |
Research Abstract |
精神科の臨床において日常的に行われていたリスクアセスメントが、欧米諸国(特にカナダのVRAG、HCR-20、PCL-R)において、注目されるようになった背景には3つの理由が考えられる。 まず、1つめは、脱施設化の動きである。これによって、入院治療と外来治療とを区別する明確な基準が必要となった。2つめは、自由入院が主流となったことで、強制入院は例外的となり、その基準を厳格に設定しなければならなくなったことである。そして、3つ目は、精神障害者に対する人権意識の高まりを受け、入院という人身の自由の制限を正当化するための説得力のある理由が必要となったことである。こうした理由のもと、欧米諸国においては、強制入院の基準として、「他害の危険」(danger to others, dangerousness)が法律上の要件とされるようになり、それをどのように評価するのかという課題が、精神科医や、裁判官、そして審査委員会(review board)などに突きつけられることになった。このように、「精神病による他害行為」のリスクアセスメントと法律との間には密接な関係がある。 我が国の医療観察法の特徴は、リスク評価を行うための法的枠組を整えたのみでなく、法自体が、リスク評価において検討すべき項目をも明確に示している点にある。医療観察法は、医療の必要性を見極める基準として、「同様の行為を行う可能性」すなわち「他害行為のリスク」の評価を鑑定人に求めており、裁判官と審判員にも、その点の検討を厳密に行うことを要求している。また、医療の提供に強制が伴う以上、不当で過剰な強制医療を防ぐためにも、この要件の評価は、適正になされなければならない。 しかし、医療観察法の主目的は「対象となる者の社会復帰」にある。その意味で、「再犯の危険性」は、「医療の必要性」の判断要件の1つに過ぎないとする医療観察法の下で開発された共通評価項目では、おのずと、リスクアセスメントとは、対象者にとっての医療の必要性の判断を厳密に行うということに還元されるべきではないかと思われる。
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