2008 Fiscal Year Annual Research Report
終末期医療における治療拒否・中止のあり方についての比較法的研究
Project/Area Number |
20530094
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Research Institution | Fukuoka Institute of Technology |
Principal Investigator |
大河原 良夫 Fukuoka Institute of Technology, 社会環境学部, 教授 (70341469)
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Keywords | 自己決定 / 治療拒否・中止 / 輸血拒否 / 安楽死 |
Research Abstract |
安楽死・尊厳死への第一歩を踏み出すことへのフランス法の警戒には、根強いものがある。安楽死とは遠いと思われる輸血拒否事件のなかで実は既に示されていたからである。Senanayake事件におけるHeers論告が、患者の意思による輸血拒否(治療差控え)のなかに、安楽死を見、状況は異なるが原理は同じだとし、輸血拒否を認めることは、「自身の生命についての主観的権利」を認めることになるとして、これに反対の判決提案を書いていたのである。同論告は、さらに、英米法が自己決定の対象としている「生死は、フランスでは『主観的』権利ではない」とまで言うほどである。このことを想起するならば、患者の死ぬ意思による安楽死・尊厳死においては、より一層自然にそれへの反対の結論が出てくるものと言わねばならない。積極的安楽死は、患者の要求によってであれ、医師のイニシアティヴによってであれ、死をもたらすものとして禁止されているのであって、2005年の終末期法が採用したのも、《donner la mort, faire mourir (illicite)》ではなく、《laisser mourir (licite)》の原理である。治療中止行為も、患者の意思(自己)決定がなくとも、「不合理な執拗」治療にあたる場合には、所定の手続を経るならば法認されている。とはいえ、治療中止決定が適法か違法かの法的敷居は、個別事案ごとに慎重に行われなければならないことに変わりはなく、それは、不合理な治癒的治療の中止だけであって、苦痛軽減の緩和治療は別であり、医師は、これを継続しなければならず、とりわけ末期患者は、これを受ける権利がある。ただ、この点でも、「生命短縮の二次的効果」のある治療は、単にその効果であって、目的ではないから許容されるとの理由にすぎないので(間接的安楽死)、それが安楽死容認への呼び水とならないか、やはり警戒は強いのである。
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Research Products
(2 results)