2010 Fiscal Year Annual Research Report
終末期医療における治療拒否・中止のあり方についての比較法的研究
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20530094
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Research Institution | Fukuoka Institute of Technology |
Principal Investigator |
大河原 良夫 福岡工業大学, 社会環境学部, 教授 (70341469)
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Keywords | 自己決定権 / 生命終末 / 治療拒否・中止 |
Research Abstract |
本研究は、終末期医療における患者の治療拒否権、治療中止について、その理論的な問題を比較法的に考察するのが目的である。2005年末期患者権利(終末期)法は、「末期」において、自己決定すべき時に自己決定できる(「意識」がある)か否かで、治療拒否・中止の手続を異にする。まず、末期で意思表明(自己決定)が可能な場合、患者の意思は、治療拒否した場合の結果説明を受けた後、尊重される。非末期(通常医療)の場合と違って、医師の説得義務や患者意思の反復は要求されないから、ここでの患者の権利性は強められている(通常医療の原則の延長線上にある)。 問題は、末期で意思表明が不可能な場合である(通常医療の原則を妥当させず、末期医療に特殊な原則を樹立する)。末期か非末期かにかかわらず意思表明が不可能な場合、どうするか、同法がこれに自己決定(同意)能力と無能力の谷間に位置する問題として取り組んだ点が重要である。即ち治療決定は、患者の事前の表示意思(directives anticipees)等の「考慮consulter」の後、医師がこれを行なえるが、治療制限・中止(不合理・無益・延命な治療)には、より慎重に複数医師による協議決定手続が加重され、その後でなければ認められない。しかし患者の事前意思は、医師は無視できないと解釈されるのではなく、それは医師への情報提供としての参考的価値しかなく、決定権は医師にあるとされる(医師との関係で単なる願望(法的効果なし))。事実上の無能力状態に陥った場合の問題に折角取り組みながら、事前の表示意思を生かす(尊重する)観念がまだ十分に育っていなかったといえよう。わが法(学)が立法のあり方として取り組べきは、何よりもまず、通常医療に適用される患者権利法を一般原理としてしっかりと確立し、その後に、その一般原理を、終末期医療、末期患者にどこまで適用しうるのか、適用できない特別の事情がある場合にはそれをどう修正すべきか、を検討することが必要である。
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