2009 Fiscal Year Annual Research Report
南アジアの越境水資源をめぐるガバナンスと人間の安全保障
Project/Area Number |
20530145
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
大倉 三和 Ritsumeikan University, 国際関係学部, 准教授 (30425011)
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Keywords | 人間の安全保障 / 水セキュリティ / 環境ガバナンス / 統合的水管理 / 国際河川 |
Research Abstract |
本研究の目的は、「水の安全保障(Water Security : WS)」および「水ガバナンス(Water Governance : WG)」概念の理論的検討のうえに、バングラデシュのある住民主導型水環境管理の事例分析を通じ、ボトムアップの視点による「水インセキュリティ」状況の分析枠組みを提示することにある。平成21年度は、以下の研究を実施し、シンポジウムおよび学会での報告につなげた。 (1)WS概念の分析・検討:「人間」・「環境」の両安全保障概念に関連するWS概念の問題点を検討した。両概念の問題点はWS概念にも共通する一方で、WS概念は新自由主義に基づく意味・手段の規定が明らかであるため、政策議論における国際援助機関と開発途上国政府の対立は先鋭化している。 (2)ガバナンスとセキュリティの関係についての検討:先行研究や既存理論においてガバナンスと安全保障の関係は明示的でなく、それぞれ別個に分析枠組みや視点が提起されているため、社会学の社会秩序に関する理論から、WS・WG両概念を分析枠組みにおいて統合する手がかりを模索中である。 (3)8月15日から9月11日にかけてバングラデシュ西部沿岸地帯を再訪し、住民発案による手法での水環境管理の進展プロセス、また新たに設置された郡議会がその過程に果たす役割について調査した。中央政府がトップダウンかつ形式的に「住民参加型」環境管理を進める一方で、草の根の市民運動が国際機関や民間研究機関を巻き込み、着実にボトムアップ型環境管理の主流化にむけて展開しているが、この展開の鍵を握るであろう郡議会は、中央政府による権限移譲の遅延により、有意な役割を果たせずにとどまっている。 以上より、事例地域の水インセキュリティは、大規模インフラ重視の政府主導型ガバナンスのもと、60年代治水事業の弊害、ガンジス川上流のインドによる取水、住民主導の水環境管理に対する政府の抑圧により具体化している状況にある。
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Research Products
(2 results)