2011 Fiscal Year Annual Research Report
ベヴァリッジの研究を核とした福祉国家の起源と現代性の探究
Project/Area Number |
20530174
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
小峯 敦 龍谷大学, 経済学部, 教授 (00262387)
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Keywords | 経済学史 / 経済思想 / ケインズ / 福祉国家 / 半自治組織 |
Research Abstract |
福祉国家の起源と現代性を探るのに、最適な標的はLSEの福祉思想である。その中で、2つの方向・時代から、(A)国内の経済、(B)国際的な政治経済、(C)共同体(徳) という3つの福祉存続条件を調べていく。中心となるのは計画の初期にはキャナンであり、後期にはベヴァリッジの連邦主義である。手段としては、大型図書やマイクロ・フィルムを使った資料の分析、海外アーカイブを用いた未公開資料の収集・分析・デジタル化である。最終年である本年度は特に(C)を考察しつつ、全体の構想を仕上げる。まず「大学行政官としてのケインズ」という題名で学会報告を行い、同時に英語および日本語で論文化する。この論題はケンブリッジ大学の女性学位問題を題材にしつつ、どのような組織をケインズが推奨したのか、ここに自由(資本主義)と制御(社会保障)という敷衍したテーマを見出すことが可能となる。半自治組織としてのカレッジ、大学に着目するのである。 夏にはClare Hall,Cambridgeに滞在し、ケインズ関係の文書を資料蒐集した。その際にキングズカレッジの古文書館、そして大学中央図書館の稀覯室を拠点とした。同時に、オックスフォード大学のベリオール・カレッジで開かれた学会に参加した。ここはベヴァリッジが大学生活の拠点とした場所であり、イギリス理想主義の殿堂である。その現地に触れることにより、今後の資料収集の足がかりとした。 またこの資料に基づいて、次の題名でオーストラリアの経済思想学会で報告した。Why did Keynes promote Grace I in 1921? A Cambridge University Officer's Attitude towards Conferring Degrees on Women。そこでのコメントに基づいて、大きな改訂を加えて、再びフィレンツェの国際会議で報告をした。日本の経済学史学会でも「大学行政官としてのケインズ、1920年代初頭、ケンブリッジの女性学位問題」を題して学会報告を行い、様々な質疑応答を通じて、この論題に迫ることができた。そこで次の結論を得ることができた。この論題は、伝統と進取、自由と制御が混合した理想的な自治組織の体現であり、深層心理によって、女性学位問題にケインズが対処したのである。ケインズは学部という中間団体の自治を推し進めることにより、大学の効率性と公共目的(自由や公平性)を同時に達成しようと試みた。この論題は「自由社会の経済思想」の実例であり、ケインズ思想の探究に重大な意味を持つ。
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Research Products
(7 results)