Research Abstract |
本研究は,家計・企業の多様性に着目し,都市の内部構造の動態変化を,住宅価格,オフィス家賃,住室家賃,および家計の立地行動に関するデータを収集整備することで明らかにした。まず,Shimizu,Karato and Asami(2010)では,東京都区部の大規模な土地建物利用データの個票を用いて,土地利用転換と収益格差の関係を理論・実証的に明らかにした。その結果,理論モデルが示すように,2用途間の収益格差が生まれた後において,収益が高い方向へと土地利用転換が進むことが明らかになった。続いて,Shimizuほか(2010)の住宅家賃を対象とした分析では,家賃の価格改定の決定構造を明らかにした。住宅の家賃が,市場と契約家賃との乖離といった市場の状態によって決定されているのではなく,時間依存で決定されていることが明らかになった。このようなマイクロな構造を踏まえて,計量モデルを用いて,住宅価格の時系列変動を観察できる価格指数の開発のための基礎的研究を実施した。まず,Shimizuほか(2010)の住宅価格を対象とした研究では,住宅価格指数の推計方法として提案されてきたヘドニック価格法とリピート・セールス法とを比較して,リピート・セールス法には,無視できない大きな問題が存在していることを明らかにした。その最も大きな原因の一つめとしては,リピート・セールス法では築年効果が配慮されていない問題であり,二つ目の問題が,サンプル・セレクションバイアスの問題であった。また,Karatoほか(2010)では,そのような問題に加えて,コーホート効果の問題を明らかにするとともに,それを改善するためのノンパラメトリック推計法を提案した。続いて,佐藤・清水(2010)では,家計の行動に着目した。同研究では,大規模なアンケート調査を用いて,どのような家計特性を持つ主体が,どのような住宅の移転行動をしているのかを,GISを用いて空間的な分布の変化と合わせて解明した。このような研究は,しばしば指摘される不透明な不動産市場の解明を進めるための多くの基礎的な知見を抽出できたものと考える。
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