Research Abstract |
本研究では,創業間もないスタートアップ期の企業(以下,「スタートアップ企業」と呼ぶ)に焦点をあてており,当該年度は,前年度に構築したデータセットを用いて,モデルの推定および推定結果の考察を中心に研究を進めた.とくに,創業後5年間の財務諸表をもとに,スタートアップ企業の資本構成を分析している. 当該年度の研究成果として,スタートアップ企業の資本構成について,負債比率(対総資産)やデットファイナンスが増加しており,デットファイナンスについては銀行などの金融機関からの借入金への依存が大きいことを明らかにした.つぎに,企業成長と内部金融との関係を検証し,内部金融を保有するスタートアップ企業ほど総資産や株主資本を増加させており,とくに,こうした企業は,銀行などの金融機関からの借入金を中心としたデットファイナンスを増加させることを示した.推定結果から,スタートアップ期の内部資金の効果は,ペッキングオーダー仮説に依拠する内部金融と外部金融との代替的な効果より,むしろ内部資金によって外部資金の限界効果を小さくする「レバレッジ効果」の存在を示した.こうした研究成果を通じて,情報の非対称性にもとづくスタートアップ企業の資金調達の問題だけでなく,企業成長をめざすうえでのスタートアップ企業自身の「変化」の重要性を指摘している. それ以外の研究として,スタートアップ企業の存続と退出を分析しており,とくに,破産,自主廃業,被合併といった複数のタイプの退出に対処するための競合リスクハザードモデルの応用研究を試みた.推定結果から,起業家個人の属性が,破産,自主廃業,被合併の退出タイプによって異なることを示した.さらに,これまでの一連の研究活動を通じて得られた知見をまとめて,アントレプレナーシップ(スタートアップ企業)に関する専門書を発刊した.
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