2010 Fiscal Year Annual Research Report
公益通報者保護制度と企業コンプライアンスに関する理論・実験研究
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20530246
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Research Institution | Future University-Hakodate |
Principal Investigator |
川越 敏司 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 准教授 (80272277)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀧澤 弘和 中央大学, 経済学部, 教授 (80297720)
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Keywords | 公益通報者保護 / コンプライアンス / ゲーム理論 / 実験経済学 |
Research Abstract |
本研究では、わが国の公益通報者保護制度に関して、企業内部の不祥事を内部告発する側には、忠誠心のゆえに会社を裏切ることへの罪意識があるという立場から、この問題を罪意識の理論によって考察してきた。この理論では、各プレーヤーは、自分の行為が他人の期待するものとは異なる結果をもたらしたときに罪意識という不効用を感じるものと考える。この罪意識のモデルに関しては、その基本形を著書『行動ゲーム理論入門』に解説した。ところが、従来のモデルでは、故意にせよ偶然にせよ、とにかく相手の期待を裏切る結果が生じた時に罪意識を感じるものとされてきたが、自分が行為には直接関与していない偶然に生じた結果にまで罪意識を抱くのは不自然である。そこで、従来のモデルをより妥当な形に修正した理論を研究し、それが従来のモデルの精緻化された解概念になることが確かめられた。この新しいモデルに基づく実験を実施したところ、従来罪意識の結果だと思われてきた現象が、実はそうではないことが確かめられた。この成果は、"Guilt Aversion Revisited : An Experimental Test of a New Model"として国際会議で発表した後、専門雑誌に投稿・審査中である。 こうした罪意識の理論の妥当性が疑わしいことから、この罪意識のモデルを拡張して、必ずしも自分自身が関与したわけではないが、自分が属するグループが犯した行為に対する集団的な罪意識をモデル化することにも着手した。この集団的罪意識のモデルを前提とすると、これまで築き上げてきた企業内の地位や職を犠牲にしてまでも、企業内部の不祥事を内部告発するというプレーヤーの動機付けを明確にとらえることができると考えている。今後は、公益通報者保護制度を心理学的ゲーム理論に基づく集団的な罪意識の観点から再評価し、それをもって企業内統治のメカニズムについての理解をさらに深めていく必要がある。
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