Research Abstract |
本年度は債券業務と金融機関の行動について研究をおこなった。すなわち金融機関には,預金を受け入れて貸出をおこない,その利鞘を取得する商業銀行のほかに,債券の発行を企画し,その発行を引き受けるというリスクを負うかわりに,手数料を取得する投資銀行,および発行された証券を投資家に売り捌いたり,投資家が売却したい証券の買い手を捜したり,みずからその証券を買い受けた上で,売却先を探すことで手数料や価格差を取得するブローカーという3つの類型がありうる。銀行が貸出先があまりない場合に,債券を購入するという行動は,商業銀行の枠内にとどまるが,そうした行動が可能になるためには,証券の発行会社が直接投資家を見つけるのに非常に高いコストがかかることから,投資銀行やブローカーが存在していることが前提になる。ただしこうした金融機関の業務は,1つの金融機関が複数営むことが可能で,そうした方がコストが下がることもあるが,逆に投資銀行業務のリスクが大きいために,商業銀行業務に悪影響を与える可能性があり,どの程度多角化したほうがいいかは先験的にはいえない。そこで日本において,こうした3つの基本モデルが,どのように発展してきたのかを,債券業務とのかかわりを中心に考察した。その結果,明治から太平洋戦争までの日本では,有力な一部の商業銀行が投資銀行業務を兼営したが,ブローカー業務は公社債業者や現物業者が担っていたこと,戦時中に金融統制が強化され,戦後になると,商業銀行の投資銀行兼営が制約され,投資銀行業務とブローカー業務を兼営する総合証券会社という業態が出現したことが明らかとなった。戦間期の地方銀行の債権投資は,公社債業者が地方銀行にアプローチすることで可能となっていたことが判明した。
|