2009 Fiscal Year Annual Research Report
アジア・ネットワークにおける制度と生存基盤に関する基礎的研究
Project/Area Number |
20530305
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
籠谷 直人 Kyoto University, 人文科学研究所, 教授 (70185734)
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Keywords | 華僑 / コミュニティ / 神戸 / 長崎 / 宗族 / オーラルヒストリー |
Research Abstract |
華僑研究を進めていく上で、「宗族」の作動を理解する必要を強く感じた。日本とは異なり、多子相続制を基本としている中国では、共通の祖先、または開発祖先をもつ複数の家族の纏まりが、権力的な求心力を上回るようである。宗族の共通財産(族田-家族成員に均等に貸し付けられる土地)を有効利用して、「困窮家族を救済」するし、灌漑などの大規模共同事業・防衛・祭事も実施した。成員家族は「大体において平等」であった。それは、宋代以降にあって「市場経済のかなりの発達」を背景にしており、コミュニティ関係は相互支援の原則であったことが分かってきた。地主-小作関係がひろがっても、コミュニティ関係が「保護」機能を果たしたから、日本のように領主制を選び取る必要はなかったのだ。華僑の故郷である華南の沿岸部では「富裕な家族」にとって、「商品、土地および信用が同じ富裕の目的のための代替的な資産保有の対象」(村松祐次『中国経済の社会態制』)になっていた。族田においては、同族内成員には「小作権」が発生し、「市場経済の浸透」があった。地主は小作人にたいして資本や信用を提供しないが、地主は小作人に干渉することはなかった。それゆえ、小作権が明確な土地から徴税することが国家にとってコストを引き下げた。人頭税ではなく、地税が選ばれた所以である。そして、土地の資源制約を受けた家族成員が、長期労働者として出境することも規制はなかった。華僑史の問題は、権力の求心力とは無縁のような、地主-小作人のなかの「緩やかな関係」の問題でもあった。こうした論点を、神戸・長崎の華僑の実業家から聞き取りを行っている。
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