2008 Fiscal Year Annual Research Report
8-9世紀イタリア北部諸都市における私文書作成の経済的機能
Project/Area Number |
20530308
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
城戸 照子 Oita University, 経済学部, 教授 (10212169)
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Keywords | ノタリウス / 農地契約 / リヴェッロ / 遺言状 |
Research Abstract |
平成20年度には、次の3点において研究成果をえることができた。第1に、史料論に関する蓄積が特に厚いフランス中世学界での成果を参照しながら、私文書の類型と位置づけを再考した。対象領域の私文書は、特に寄進や相続(遺言状史料に依拠する)、農地契約を含む土地取引(譲与・交換・貸借・売買など)の具体相で現れることを確認した。日本ではイタリア中部を対象とする西村善矢氏の研究があり、今後研究会等での討論が期待できる。 第2に、私文書の書き手として中世初期にも重要な、notariusに関する研究動向を追跡するため、研究文献検索や収集、史料収集の作業に着手できた。中世初期のnotariusは、王や皇帝の文書局書記や聖職者以外で称号の肩書きをもつ書記として、私文書の作成と私文書が経済活動の要となる文書社会の維持のためには、不可欠の存在であるのが、再確認された。 第3にイタリアのボローニャ大学での史料収集ととりわけ農地契約研究では第一人者のB.アンドレオッリ教授とのコンタクトによって、リヴェッロと呼ばれる農地契約の最新の研究動向を知ることができた。領主による土地支配(その徹底した形が荘園制)と自由身分の農民所有地である自有地の蝶番として存在する、契約による土地耕作農民の存在は中世初期の社会構造を解明する要の一つといえる。彼らの存在をより鮮明にして土地構造の中に位置づけることで、農地耕作契約という私文書が果たした役割の重要性も浮かび上がってくる。特に新しい研究潮流とその動向の先行研究への位置づけを確認できたことで、長期的な研究方向を確認することができ、今後の指針となった
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