2010 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツにおける早生的新自由主義経済の生成と展開に関する研究―ナチス期の国家と市場
Project/Area Number |
20530309
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
雨宮 昭彦 首都大学東京, 大学院・社会科学研究科, 教授 (60202701)
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Keywords | ナチス新民法(国民法) / 競争政策 / 国家食糧団・国家世襲農場・生産闘争 / 所得均衡・人口政策・食料自給 / 土地生産性と労働生産性 / コブ・ダグラス生産関数 / 脱商品化 / 国家信用制度法 |
Research Abstract |
世界恐慌に直面したドイツでは、とくにナチス第三帝国において、存亡の危機に瀕した資本主義経済を救済し、その持続可能なシステムとして再構築するための市場秩序の模索が、当時の資本主義諸国での類似した試みと比較して、比類ない規模で、しかもその後の資本主義経済の展開の歴史という点から見ると、先駆的な試みともいうべき性格をもって、遂行された。工業経済においては、ナチス新民法(国民法)に明記されたようにあくまでも市場を維持しつつ、画期的な競争政策が、一般業務条件(AGB)の改正、競争を目的とした運用を企図した強制カルテル設立法、競争条例をはじめとする多数の経済法として発布された。労働経済では、国民的労働秩序法によって、高賃金の阻止と取引の自由がもたらす極端な賃金低下を回避した。食糧経済では、国家食糧団・国家世襲農場・生産闘争を通じて(農工間)所得均衡・人口政策・食料自給を追究し、その隘路を東欧侵略により打開しようとした。とくに中小農の農地の「脱商品化」をはかった国家世襲農場は、農業生産性(食料自給)の上昇を土地生産性の上昇に求めざるを得なくなり、大経営化・機械化による労働生産性の上昇と(農工間)所得均衡の実現に失敗することになった。この土地生産性と労働生産性の観点はコブ・ダグラス生産関数を用いて分析の指針として具体化した。通貨に関しては、各国が対ドルレートを切り下げていくなかで、マルク(ドイツの通貨)はむしろその維持の方向が追求され、国内的には、「国家信用制度法」などによって貨幣の「商品化」を規制する資本市場の健全化政策が施行された。物価騰貴と財政拡大を抑制しつつ実行された景気回復の方法(数量景気の誘導政策)も、ここでの問題関心から見れば、「信用経済」の拡大を抑制して貨幣の商品化を制御する試みであったということもできる。
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