Research Abstract |
本年度は,昨年度までの研究成果に依拠しつつ,関連文献や関連資料等の渉猟・解析をさらに進め,研究課題の達成に努めた。とりわけFASB/IASB改訂概念フレームワーク・プロジェクトのデュープロセス・ドキュメント(たとえば2006年討議資料,2008公開草案,2010年概念書第8号等)の論理分析を,米国の代表的な先行研究(Storey and Storey [1998], Johnson [2004]等)との照合を通じて進め,その作業によって,改訂概念フレームワークにおいて会計情報の新しい質的特性として定式化された「忠実な表現」(faithfl representation)の制度的含意の解明を試みた。その結果,「忠実な表現」の定式化は,(1)「目的適合性」の作用については重畳的な強化をもたらす一方で,(2)それまで「目的適合性」と並ぶ基本的特性の1つとして位置づけられてきた「信頼性」とりわけその主要要素である「検証可能性」の作用については,排除・形骸化をもたらすものであることが明らかになった。しかも,「忠実な表現」は,定義・認識と測定(公正価値測定)の「必然的な結びつき」をも要請する特性として概念構成されていることが明らかになった。定義・認識と測定の「必然的な結びつき」は,従来の概念フレームワークでは公式的に否定されてきたものである。しかし,先行研究の解析により,定義・認識と測定の「必然的な結びつき」を要請する要素は,概念フレームワークの概念的基礎として採用された資産負債アプローチが本来的に有していたものであることが確認された。当該要素は,FASBが,1980年代に当時のアメリカの会計環境等への配慮から,概念フレームワークへの導入を断念したものであった。つまり,2010年改訂概念フレームワークは,当初の概念フレームワークの公表から約30年を経て,資産負債アプローチの本来の姿を復元するものになっているのである。以上の研究成果は,雑誌論文や学会発表を通じて公開した。さらに,以上の研究を通して得られた知見を一般化する試みとして,非営利法人における会計制度変化(非営利組織のアカウンタビリティやガバナンスのフレームワーク)や会計学研究の方法(実証研究の方法論的基礎)に関する検討も行った。
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