2010 Fiscal Year Annual Research Report
会社法・金融商品取引法における財務報告と投資家行動に関する実証研究
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20530409
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
音川 和久 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (90295733)
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Keywords | 会計学 / 四半期情報 / 大量保有報告制度 / 会計上の損失 / 投資家行動 |
Research Abstract |
本年度は、小口取引、大口取引、信用取引、大株主など、様々な形で証券市場に参加する投資家グループの株式売買行動について実証分析を展開した。 まず、企業が自発的に開示した四半期情報に対する投資家の反応を、個人投資家が主体となる小口取引と機関投資家が主体となる大口取引に区別して分析した。四半期情報開示日周辺において、小口取引および大口取引はともに有意に増加するが、その方向は必ずしも一致していなかった。大口の投資家が積極的に買った銘柄はその後の期間に株価が上昇し、反対に大口の投資家が積極的に売却した銘柄は株価が下落する傾向があった。しかし、小口の投資家による株式売買とその後の株式リターンの間に、そのような関連性を観察することはできなかった。したがって、同じ四半期情報が開示されても、それに対する反応は、個人投資家が主体となる小口取引よりも、機関投資家が主体となる大口取引のほうが相対的に洗練されていることを明らかにした。この結果は、金融商品取引法のもとで導入された四半期報告書制度に対して貴重な示唆を提供する。 さらに、資産・負債アプローチに依拠した新しい会計基準の新設・改定などに伴って会計上の損失を計上する頻度が増加してきたことを踏まえて、損失を計上した企業における投資家の株式売買行動を分析した。他のグループに比べて相対的に洗練された投資家グループとして、高い取引費用を負担しなければならない信用取引の売りを行う投資家と、一定以上の株式を所有し、金融商品取引法の大量保有報告制度に基づく開示対象となる大株主の売買行動に焦点を当てた。そして、会計利益と株価の間に有意なプラスの関連性があるという従来の発見事項と一致して、決算発表前に、空売りが積極的に行われた結果として信用取引の売り残高が増加すること、および大株主の売買行動が買い越しから売り越しに転じることを明らかにした。
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