Research Abstract |
【文献研究】 若年者との比較における高齢者の虚偽記憶に関して,実験的手法において,高齢者の虚偽記憶,すなわち記憶の歪曲の低減という観点から,虚再生と虚再認の異同,理論的可能性,変数操作による方法,および脳機能との関連性について諸文献を検討した。 【DRMパラダイムによる実験】 記憶の歪曲は,学習時にのみ生じるのか,あるいは想起時に歪曲された記憶がその後の遅延想起に影響するのかを検討するために,直後再認およびその後の挿入課題(リハーサルまたは妨害)が遅延再認におよぼす影響を検討した。その結果,挿入課題の効果は認められなかったが,直後再認テスト時に用いられる非提示語(学習セッションには用いられない単語リストから選択)の虚再認が認められた。この結果から,学習時の無意図的な連想記憶方略の強固さと,従来は単なる侵入語のノイズとみなされていた学習時の非提示語が,特に高齢者において,直後再認から遅延再認の過程において意味ある変容を示すことが明らかになった。 【記憶の自信度と記憶の歪曲の関連性】 自己の記憶に対する主観的な自信度を測定するメタ記憶尺度(主観的記憶自信度尺度,Metamemory Scale of Self-Confidence : MSSC)を開発した。「主観的記憶自信度尺度」の成績と高齢者の日常活動の積極性との関連性,および自己に対する多面的なメタ認知との関連性を評価し,また,DRM課題の成績との関連性を検討した。その結果,積極的な社会活動との正の相関が認められ,また,顕在記憶である正記憶との関連は認められなかったが,潜在記憶である虚偽記憶とは負の関係にあることが示された。 以上の成果を,国際老年学・老年医学会(パリ),日本老年社会科学会(横浜),老年心理学研究会(大阪),日本老年行動科学会(神奈川),日本応用老年学会(沖縄),日本心理学会(京都),および日本発達心理学会(神戸)に参加し,情報交換および発表を行った。
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