2010 Fiscal Year Annual Research Report
広汎性発達障害児を対象とした精神分析的アプローチによる治療効果の判定について
Project/Area Number |
20530642
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Research Institution | Shirayuri College |
Principal Investigator |
木部 則雄 白百合女子大学, 文学部, 教授 (10338569)
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Keywords | 児童期 / 発達障害 / 精神分析 / 心理療法 / アセスメント |
Research Abstract |
本研究は、英国の精神分析的アプローチに基づき、広汎性発達障害児に対する精神分析的心理療法の有効性について科学的な見地から検証することを目的としている。 継続中の6ケースについて、月1回、研究協力者全員参加し、ケース検討および評価を重ねてきた。6症例は、他機関において、広汎性発達障害、自閉症、発達障害のいずれかの診断を受けている。それぞれは、特徴は異なるものの、プレイセラピーのなかで表現される世界は附着同一化や対象との融合といった自閉的な様相を帯びているものである。一方、家庭環境や適応レベルは各症例ごとに異なるものであり、ケースに応じたケースワークが適宜取り入れられた。本研究では、この6症例について、詳細なケースレポートをまとめ、広汎性発達障害への精神分析的アプローチの治療効果について検討した。また、木部が英国における精神分析的アプローチの実践について論じた。 各症例の精神分析的心理療法の詳細なケースレポートからは、自他未分化の空想から分化に向かうプロセスが報告されている。自他の分化が達成されるにつれ、治療者との間で付着同一化から投影同一化といった転移関係の変遷が認められている。そうした転移関係を直面化や解釈といった精神分析技法でもって治療者-クライエント関係のなかで取り扱うことにより、現実的な体験のインパクトをクライエント自身が象徴的な方法で表現できる能力が高まり、そうしたインパクトに伴う不安や混乱を自身のなかに納めていく心的機能が認められた。結果的には、パニックに陥ることが少なくなったり、学校や家庭での適応があがり、集団参加が可能となる変化が認められた。だが一方で、そうした不安、混乱が、治療の進展に伴い表現されるようになった段階で、家庭での子どもの管理や対応が困難となり、中断せざるを得なかった症例もあり、家庭へのコンサルテーションや治療者側の連携の取り方については再考する必要があるだろう。また、思春期に移行するケースがあるため、今後も精神分析的アプローチを継続し、子どものパーソナリティの発達や社会適応の経過を追っていく必要があり、今後の課題である。
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