2008 Fiscal Year Annual Research Report
スウェーデンにおける民衆学校制度の成立・展開とスロイド教育
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20530689
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
横山 悦生 Nagoya University, 大学院・教育発達科学研究科, 准教授 (40210629)
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Keywords | 民衆学校 / 固定型学校 / 巡回型学校 / 民衆教育令 |
Research Abstract |
1842年に制定された「民衆教育令」は、スウェーデンにおける民衆教育を学校教育として制度化した最初の重要な法令として知られるが、先行研究では細部に立ち入った分析に欠けていた。今年度は、(1)「民衆教育令」直前の民衆教育の実態との関連において「民衆教育令」の意義を解明し、(2)「民衆教育令」制定直後の1840〜50年代に展開されたスウェーデンにおける民衆学校制度の形成過程の実情を解明し、民衆教育令体制の若干の特徴を摘出した。民衆教育令がもたらした結果の主要な側面は、学齢児童を就学させるために原則として全教区に民衆学校を設置するという基本的な法制度を確立した点にある。その結果、民衆教育は急速に普及し、法令発布後5年して全く学ぶ機会をもたない児童が早くも学齢児童の6%台に減少したように、初歩的な基礎を確立した。この結果は固定型学校を普及させることを基本としながら、さらに人口希薄な地域に巡回型学校を広範に取り入れたうえ、伝統的な家庭教育を容認するなど、多様な就学形態を含み込む柔軟な政策がもたらした。民衆教育を普及させるうえで決定的な弱点であった教師の不足に対処するために、当面は助教制を温存させながら、教師の資格を設定し、教師養成と教師の待遇の抜本的な改善に着手したこと、教員配置と教師養成に対する国庫補助を強化したことも民衆教育令がもたらした重要な施策である。他面で、民衆教育令体制はなお大きな弱点をかかえており、期待された教育実態が伴わなかった。巡回型学校への児童の就学は教育効果が必然的に脆弱化せざるを得なかった。固定型学校の普及は著しかったが、その大半は1学校1学級の単級学級であり、資格をもつ教師の絶対的不足のなかで助教制に依拠せざるを得ないなど、多くの弱点があった。「最低限の知識を習得した児童」の数が法律の施行後12年を経ても4%台にとどまったことは、民衆教育令体制の大きな弱点を象徴していた。即ち、民衆教育令体制は民衆教育の実を効果的に達成したというには程遠かった。民衆教育令の帰結は、初歩的教育を広範な国民に普及させたという積極面と、教育効果は甚だ初歩的な水準にとどまったという両極が併存していた。
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