2009 Fiscal Year Annual Research Report
フランスの義務教育における学力保障制度の改革に関する研究
Project/Area Number |
20530721
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
藤井 穂高 Tokyo Gakugei University, 教育学研究科, 教授 (50238531)
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Keywords | フランス / 義務教育 / 共通基礎 / 共通教養 |
Research Abstract |
フランスでは2005年4月に「学校の未来のための基本計画法」が成立し、義務教育段階において児童生徒全員に共通に保障すべき内容として「知識技能の共通基礎」が定められた。興味深いのは、「共通基礎」が定められたこと自体である。というのもフランスにおいて「最低限の共通知識」や「共通教養」の問題は、「四半世紀にわたって、定期的に葬られてきた」課題であったからである。そこで今年度は、共通基礎の制定の背景とその意義を明らかにすることを課題とした。そのために、内外の先行研究を踏まえ、まず共通基礎の規定内容を簡単に整理し、次に義務教育における共通基礎を要請する政策動向を跡づけ、さらに、学校基本計画法の審議過程を素材としてその立法者意思を分析した。フランスの場合、義務教育における分岐型の克服は戦後の教育改革の大きな課題であり、統一コレージュ成立後においても義務教育の教育内容の共通化は課題として残ることになる。また、職業界への参入が資格を前提とし、その資格の取得を学校教育が保障するというフランスの仕組みは、それだけ教育の質保証を課題として浮上させやすいことも背景にある。ジョスパン法では、すべての生徒の最低資格の取得という教育の結果の平等が追求され、その後の教育政策では、無資格による離学者への対応が、社会正義、特に「公正」の理念の下にクローズアップされる。ここから、義務教育の共通性は、高いレベルの教養や資格ではなく、生徒全員に最低限保障すべき「基礎」であることが求められる。その際に、フェリーに代表される「教育制度の中心に知識(と生徒との関係)を置く」という考え方は、改革の対象を教育方法ではなく教育内容に焦点化することに与することになる。さらに、共通基礎の保障という観点からは、長年の議論を経た立法化の果てに、保障の内容が児童生徒の習得自体からそのための手段に修正されたことは、きわめて興味深い示唆を含んでいるように思われる。
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Research Products
(2 results)