2010 Fiscal Year Annual Research Report
バカロレアに学ぶ伝統継承と市民の育成-通過儀礼としてのフランス大学入学資格試験-
Project/Area Number |
20530770
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
渡邉 雅子 名古屋大学, 大学院・教育発達科学研究科, 准教授 (20312209)
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Keywords | 思考表現法 / フランス / 大学入試 / 哲学教育 / 通過儀礼 / 能力観 |
Research Abstract |
平成22年度は、リヨンのリセにてバカロレア準備のための哲学、地理、フランス語の授業観察および教師へのインタビューを行うとともに、パリとリヨンのリセにて国際オプションバカロレア口述試験の視学官を務めることを通して、フランス式口述試験の形式を使って日本の知識(文学と地理歴史)を問う可能性を探った。日本の大学入試を再考し、実質的な提言を行う基礎作りができた。また、本科研費研究の3年間の蓄積を生かして、リヨンのリセで、バカロレア試験を通していかなるフランスの思考表現法と能力観が養われているのかについての講演会と研究会を行い、バカロレアの理念の共有とプログラム作りへの貢献ができたのも大きな収穫であった。 バカロレアの準備教育を通して養われるのは、知識を伝統的な弁証法の形式に落とし込むことによって、考え方の「型」を修得させるとともに、個別具体的な情報をまとめあげて結論や知見に導く、つまり説得力ある大きな構図を描く方法の体得である。この方法論は、哲学や歴史、文学などの確実な引用無しには適用不可能であるので、共通財産としての基礎知識の暗記とともにそれら知識を自在に組み合わせて論を展開する能力と、特に哲学においては「何を論点とするのか」を「問い」の形にして浮かび上がらせる発問力が徹底的に訓練される。バカロレアが大人への通過儀礼であると同時に「フランス人」になるための儀礼であるのは、ギリシャ・ローマに連なる思考法を中等教育を受けるすべての生徒にたたき込むことによって自らが西洋文明の継承者である誇りを植え付けることにある。同時に世界の複雑性を受け入れ、矛盾を包括しつつ動的に考える思考法は「共和国の市民」になるため初等教育から積み上げられた市民教育の知識と技術の統合として哲学のバカロレア試験に結実している。
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Research Products
(5 results)