Research Abstract |
ランダムに不純物を含む多次元格子上のランダムウォークの再帰性の問題を解決するにあたって,多重点の個数に関する大偏差原理を考える必要があり,問題を解決するために,前年度に引き続きブラウン運動の標本路の定める筒型集合(いわゆる,Wiener sausage)の体積について,エントロピー関数の決定を当面の目標に設定して,期待値に関する漸近挙動を研究した.時刻tが増大するときの体積の増加率は,古くから研究されており,自由ェネルギー関数の原点での挙動に関係していることが知られているが,これはェントロピー関数の決定の視点に立つと上からの評価を与えたことになっている.そこで,その評価に対する精密化の意味で,漸近展開を研究した.その結果,奇数次元の場合は,時刻tの半整数の負冪で展開できることが証明できた.さらに,各項の係数が,第2種変形ベッセル関数の零点で表現できることも得られた.ここで用いた毛法は,昨年度に得られたtの半方根による冪級数展開における係数を決定するすことにも適用され,各項の係数が,やはり,第2種変形ベッセル関数の零点で表現できることがわかった.以上,これらの結果を整理し,論文の執筆にとりかかった.漸近挙動の問題の起源は,1960年代に遡り,今から約20年前に精密化が行われたが,漸近展開に関する研究は,全くなされておちず,その解決が待たれていたが,時代の流れとともに,Wiener sausageは主な研究対象から外れてしまっていった歴史がある.今回,ランダム媒質の問題の研究とともに,再ひ,研究の表舞台に出てきた意義は大きい.昨年度,投稿した論文は,日本数学会発行の査読付き学術雑誌(欧文)への掲載が内定したことを付記しておく.
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