Research Abstract |
グラフの幾何,グラフ上の作用素のスペクトル情報,そしてグラフ上の酔歩の挙動という3者の相関関係を明らかにしていく,という本研究のテーマのもとで,昨年度は有限グラフ上の酔歩の被覆時間(全ての頂点を訪問するのにかかる最短時間の期待値)に重きをおき,spider graphというグラフの族に対してある一定の結果を得た.そこで今年度はより一般の木という族に対する特徴付け(ここには任意の有限グラフの性質の多くはその全域部分木に支配されるという背景がある)を目指して,部分族であるspider graphのより詳細な解析を試みた.しかしそこでは,既存の手法での打破がほぼ不可能であることが判明したため,グラフの幾何と被覆時間の直接関係の解明は一旦保留とし,グラフの幾何とスペクトル情報の相関関係に重点を置いた.とくに注目したのは,スペクトル構造の遺伝部分と差異部分がはっきりするグラフの変形であり,これは物性物理で見られる金属半導体遷移とも強く関連するものである。具体的には,有限正則グラフの極大可換被覆グラフのスペクトルは,絶対連続スペクトルで充満される(1-band structure)ことが多いが,その有限グラフにある変形を施したグラフの極大可換被覆グラフにおけるスペクトルは,絶対連続スペクトルだけからなりその構造もある程度遺伝している一方で,複数の区間に分かれてしまうこと(n-bands structure)が得られた.これは物性における,例えば,grapheneは強い金属性(1-band)を持つのに対して水素を付与したgraphaneは半導体の性質(2-bands)庭持つ,などの事実に対する,グラフのスペクトル幾何からの一般化ともいえ,数学以外の分野にも意義があると信じている.さらに,状態密度を含めた詳細なスペクトル構造の解析にも着手しており,この研究の進展は,幾何・スペクトルおよび酔歩の挙動という3者の相関関係のみならず,今後広い分野に応用されることが十分期待される.
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