2011 Fiscal Year Annual Research Report
ゲージ/重力対応の直接検証及びそれに基づく時空構造の研究
Project/Area Number |
20540286
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
西村 淳 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (90273218)
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Keywords | 超弦理論 / 行列模型 / ゲージ理論 / 超対称性 / ブラックホール |
Research Abstract |
本年度は、超弦理論の数値的研究において、非常に重要な成果をあげられた。超弦理論の非摂動的定式化として、石橋、川合、北澤、土屋の行列模型が良く知られている。これまでの研究では、時間を虚時間に読み替えて、ユークリッド時空上の超弦理論が調べられてきた。ところが本年度の我々の研究により、その場合の結論が明確になり、力学的に生成する時空が物理的な状況に対応していないことが示された。 これに動機づけられて、時間を実時間として扱うような行列模型を数値的に研究したところ、宇宙が誕生する様子を示唆する、極めて興味深い結果が得られた。それによると、十分過去においては小さく9次元的に広がっていた空間が、ある時刻を境に、3次元方向だけが急速に膨張し始める、ということが明らかになった。これは、超弦理論の第一原理計算から宇宙誕生の様子を示した初めてのものと考えられ、今後の素粒子論および宇宙論の研究に対して大きなインパクトがある。 又、数値シミュレーションにおける「符号問題」と呼ばれる重要な問題に対する解決法の研究においても、重要な成果が得られた。特に、符号問題を持つ簡単な行列模型の数値シミュレーションを行い、我々の提案する「因子化法」を適用することにより、既に他の解析法により得られていた結果を再現することに成功した。 さらに、昨年度に引き続き、ゲージ/重力対応を第一原理に基づいて検証する研究を行い、2点相関関数に対する重力側の予言を、ゲージ理論側の計算により再現できることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初、ユークリッド化した行列模型において、時空の力学的生成を想定して研究を行っていたが、その結果を見てから、時間を実時間として扱うような行列模型の研究を始めた。この模型は極めて不安定な系であり、研究は難航したが、様々な試行錯誤を繰り返した末、大きな成果に結び付けることができた。プレスリリースを行い、国内外のメディアにも広く取り上げられた。当初の計画以上の進展と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
ゲージ/重力対応の検証に関しては、ストリングのループ補正に対応する1/N効果を含めた検証が、次の重要な課題となるが、ブラックホールが不安定になるために計算が容易ではない。これに対しては、系をいったん安定化させるような拘束条件を課すなど、数値計算の方法を工夫することにより、明確な結論を得ることを目指す。 また、時間を実時間として扱うような行列模型の研究は、行列サイズを大きくすることにより、宇宙誕生から時間が経過していったときの振る舞いを明らかにすることが、次の重要なステップとなる。この方向については、有効な近似法に基づく数値シミュレーションや、古典運動方程式の解くといった様々な方法により推進する。
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