Research Abstract |
スピン軌道相互作用を有する2次元電子系におけるスピン蓄積に関する理論計算を実行した.スピンホール効果により,電流と垂直方向にスピン流が生じるが,系が端を持ち,そこにリード線を接続しない場合は,スピン流がせき止められてスピン蓄積が起こると期待される.スピン軌道相互作用が存在する系ではスピンが保存量でないために,スピン蓄積の理論的評価法が非自明であった.本研究では局所電位を求めるビュッティカーの方法を拡張し,アップとダウンのスピンを持つ電子に対して独立に電位を計算することにより,スピン蓄積の理論的評価を可能にした.アップとダウンの電位差は,スピン分極に比例すると考えられるが,電流と垂直方向に空間的振動を示した.片方の端付近で最大,もう一方で最小となり,試料の端付近におけるスピン蓄積の実現を示唆する結果が得られた. ディラック電子の示す特異な電磁応答を解明するため,カーボンナノチューブにおける動的電気伝導率を計算した.多層系における励起子応答に着目してクーロン相互作用遮蔽効果を議論した.一般に,非整合の構造を持つ層間の電荷移動確率は非常に小さく無視できる.しかしながら,電子間相互作用により仮想的に異なる層にも電子・正孔励起が誘起され,相互作用は遮蔽される.擬一次元性に起因して,ナノチューブにおける電子状態は相互作用に強く依存することから,遮蔽効果の影響は,例えば,バンドギャップエネルギーや励起子束縛エネルギーに対して顕著である.ところが,励起子エネルギー準位は,それらが相殺して,微小な赤方遷移を示すにとどまる事が明らかになった.この影響の違いは,走査型トンネル顕微鏡などによるエネルギーギャップの測定と光学吸収スペクトルの比較により検証可能であり,ディラック電子の特異性の実験的解明につながると期待される.
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