Research Abstract |
カサガイ類の殻形態について,笠の高さ,殻の巻きの程度,殻頂の位置に関する三つのパラメターでその成長を表す理論形態モデルを考案した.この理論形態モデルに基づいて,殻口を楕円で近似し,上記三つのパラメターを様々に変化させ,それぞれの場合について殻の成長縁に沿った殻成長率勾配パターン(AGM)をシミュレートした.AGMの高さ,尖度,基本的な形状に注目したところ,これらは笠の高さ,殻の巻きの程度,殻頂の位置の変異の交互作用によって複合的に決まることがわかった.そこで,現生カサガイ類9種478個体について,上記三つのパラメターとAGMを計測した.その結果,種毎にAGMの高さがある範囲に保たれる範囲に殻形態の変異が偏っていることがわかった.このことは,カサガイ類の殻形態の変異性において,成長速度の速い部位と遅い部位の差の限度が重要な制約条件になっていることを示唆する. また,カサガイや二枚貝のように螺環拡大率が大きい殻形態と,アンモノイドや巻貝のように密に巻く殻形態の変異と異質性を共通の形態空間中で比較・解析するために,従来型のデカルト座標系形態空間ではなく,球面型形態空間を考案した.上記カサガイ標本に加えアンモノイド164種207個体について理論形態パラメターを計測した結果,デカルト型形態空間ではカサガイとアンモノイドのどちらかがその値の分布に極端な歪みを生じたのに対して,球面形態空間ではいずれも歪の無い分布が得られた.これによって,AGM集合と形態空間との写像を考える上で,様々な形態の貝殻を同じ空間中で解析することが可能となった. さらに,海底洞窟性二枚貝について,付加成長しない原殻の輪郭の変異性について形態測定学的解析及び進化解析を行った結果,従来知られている一般的な傾向とは逆に,サイズと比較して形状の方が変異しやすいことがわかった.これは,AGMのパターンに制約されない様式で形成される原殻の形態の可塑性を示唆している.
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