Research Abstract |
原始生命は熱水中で誕生したとする熱水起源説が注目されているが,熱水中で生体ポリマーが効率よく生成する経路は見つかっていない.本研究では,原始地球環境でペプチドが生成する経路を発見することを目的とし,350℃・400気圧までで鉱物触媒反応を追跡できる世界初の熱水フローリアクターを開発した.本年度は,この装置を用いて昨年度の研究成果をより詳細に検討した. 1. 我々が発見したアラニン4量体を用いて伸長反応を追跡した.鉱物として,天然由来の炭酸塩鉱物,硫化鉱物,ケイ酸塩鉱物,リン酸塩鉱物,粘土類を,市販品及び,鉱物採掘企業などから試料を提供してもらい利用した.これらの内で,粘土類および硫化鉱物炭の一部は,本リアクター使用時に目詰まりを起こし,反応を評価できなかった.また,炭酸塩鉱物ではアラニン5量体の生成を促進する効果があることを確認した.さらに,鎖長の大きなオリゴペプチド類の生成量も増加した.一方,硫化鉱物は,原始代謝系の起源において重要な役割を果たしたと考えられているが,反応促進効果は検出されなかった.また,鉱物が存在することによってpHが変化するためにこの反応が促進されるのではないかという仮説を立て,pH依存性を調べた結果,本反応に対する炭酸塩鉱物の効果はその種の間接的作用でないことを確認した. 2. 一方,このペプチド反応を平衡論的に有利にするために,縮合剤として水溶性カルボジイミドを検討した.しかし縮合剤そのものの安定性が低いため,熱水中では機能しないことを知った. 3. アラニン4量体の代わりにグリシン4量体を原料としてこの反応を試みた結果,伸長反応が起こることを確認したが,アラニン系と比べて反応速度は大きく,5量体の生成率は低くかった.
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