2008 Fiscal Year Annual Research Report
キラル分子の光誘起電子コヒーレンスの発現機構に関する量子動力学的研究
Project/Area Number |
20550004
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤村 勇一 Tohoku University, 大学院・理学研究科, 名誉教授 (90004473)
|
Keywords | キラル芳香族環状分子 / 分子キラリティー / 非断熱相互作用 / 電子波束 / 核波束 / キラル分子識別法 / 電子状態コヒーレンス / フェムト秒ダイナミクス |
Research Abstract |
我々は, キラル芳香族環状分子が角運動量をもたない直線偏光フェムト秒レーザーパルス照射により, その分子内π電子の一方向回転が誘起され, 環電流が生成される新しい電子ダイナミクス現象を理論的に見出した。この新規な現象はキラル分子識別法の開発へとつながるものと期待される。その開発のために, 平成20年度研究では最も重要な電子状態コヒーレンス(重ね合わせ)の時間発展における核運動効果を理論研究課題項目に設定した。これまで発表された電子コヒーレンスの理論は, 核を固定した条件で展開されていた。今年度では、この条件を緩和して光許容擬縮重な2つの電子励起状態間の非断熱効果(電子回転と核の振動運動とのBorn-Oppenheimer近似の破れ)を非定常状態電子・核運動方程式に取り込れた。具体的なキラル分子として,メチレン基を蔓(つる)にもつR-とS-dichloro[n](3, 6)pyrazinophaneを取り上げ、ab initio分子軌道法により紫外部領域に光許容な2つの電子励起状態の分子パラメータを決定した。さらに、これらの2つの状態間の非断熱相互作用をMOLPROプログラムにより評価した。得られたデータを用いて非定常状態電子・核運動方程式を解きdichloro[n](3, 6)pyrazinophaneの非断熱効果を解析した。その結果、 R-体とS-体では電子・核の波束運動に違いが見いだされた。その違いはR-体とS-体では非断熱効果によって2つの電子状態の波束の干渉の大きさに差が生じるためである。今後は、キラル分子識別法として実験的に適用できる時間分解電子スペクトルを評価することを考えている。
|