2009 Fiscal Year Annual Research Report
キラル分子の光誘起電子コヒーレンスの発現機構に関する量子動力学的研究
Project/Area Number |
20550004
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤村 勇一 Tohoku University, 大学院・理学研究科, 名誉教授 (90004473)
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Keywords | 環電流 / 非断熱相互作用 / 電子ダイナミクス / キラル分子 / 時間分解分光 / 擬縮重電子状態 / 電子コヒーレンス / フェムト秒パルス |
Research Abstract |
我々は、キラル芳香族環状分子が角運動量をもたない直線偏光フェムト秒レーザーパルス照射された場合、分子内π電子の一方向回転が誘起され、環電流が生成されるということを理論的に見出した。これはフェムト秒パルスにより擬縮重した2つの電子状態がコヒーレントに励起されることに由来する。この新規なπ電子ダイナミクス現象出現の予測は超短時間環電流の新しい制御法の開発に向けた実験研究およびキラル分子識別法の開発に対する基本原理を与えるものである。 これまで分子の振動自由度が凍結されているとして理論を展開してきたが、今年度は、より現実的に近い電子運動と分子振動が同時に関与する場合を扱った。すなわち、擬縮重した2つの電子状態間での非断熱相互作用を考慮して時間依存Schrodinger方程式を解いた。その結果、左、右周りの環電流の大きさに差があることを見出した。これをもとに新しいキラル分子識別法の開発に寄与する時間分解分光理論を構築した。具体的なキラル分子(メチレン基を蔓(つる)にもつキラルR体、S-体の-dichloro[n](3,6)pyrazinophane)を取り上げ時間分解スペクトルのシミュレーションを行った。そのスペクトルを解析することにより、R-体とL-体を識別できることを見いだした。その成果は物理学の中でもっとも権威のある国際誌、Physical Review Lettersの2010年3月12日号に発表された。この研究成果は化学物理の領域でインパクトが大きいとされ編集員の推奨論文として取り上げられた。そして、米国物理学会(American Physical Society)誌に本論文の要約が研究者にむけて掲載された。
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