Research Abstract |
今年度は,2,2'-ビス(スピロジエノン)架橋された3,3'-ビチオフェン誘導体を中心に研究を行った.サイクリックボルタンメトリー法による還元電位の測定を詳細に検討したところ,測定温度,掃引速度によってボルタモグラムが大きく変化することがわかった.低温下では-2V付近に非可逆な還元波が観測され,対応する再酸化波が-1V付近に現れるという,電位差の大きな擬可逆な酸化還元波を示すが,高温下では-1V付近に可逆な波として観測される.このような特異な酸化還元挙動は,上記誘導体にジスピロ構造が開裂したビラジカル構造とのごくわずかな平衡が存在することを示しており,以前に合成した2,2'-ビチオフェン誘導体では見られない.ESRスペクトルによってもビラジカル構造を確認することができた.スピン密度はチオフェン環にも大きく染み出しているが,ラジカル同士のビチオフェン環を通した相互作用は小さい.この平衡は他の分光学的手法では観測できず,今回見出された現象は,レドックス活性な化合物の平衡挙動の検出手段として興味深い.チオフェン環の5位にアリール基や電子供与性基を導入するとビラジカル構造の寄与が増す傾向がみられた.なかでも,N,N-ジメチルアミノフェニル基が導入された化合物は,NMRスペクトルやX線結晶構造解析においてジスピロ構造が確認されているにもかかわらず,そのサイクリックボルタモグラムはビラジカル構造のみからの波形を示している.
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