Research Abstract |
今年度は,2,2'-ビス(スピロジエノン)架橋された3,3'-ビチオフェン誘導体において,すりつぶしによって色が変化するメカノクロミズムという現象を見出し,その研究を中心に行った.ビチオフェン部の5,5'-位にN,N-ジメチルアミノフェニル基が付いた化合物において,IRスペクトルを測定するために乳鉢ですりつぶしたところ,黄色の粉末が赤橙色に大きく変化したのである.この赤橙色の粉末は空気中で1日以上放置しておいても安定であるが,ヘキサンなどの有機溶媒と接触させると瞬時に元の黄色に戻ることがわかった.N,N-ジメチルアミノ基以外のアミノ基を有する化合物を合成し,メカノクロミズムの有無を調べたところ,ピペリジル基やモルフォリル基などのアルキルアミノ基の場合にはメカノクロミズムが見られたが,ジフェニルアミノ,カルバゾリル基では見られなかった.さらに,アミノ基を有さない誘導体ではメカノクロミズムは全く観測されていない.電子スペクトルによる考察から,赤橙色の発色元はジスピロ構造が開裂したビラジカル体であることが示唆された.また,メカノクロミズムの各段階について,粉末X線回折測定を行ったところ,すりつぶした赤橙色粉末はアモルファス相をとっていることがわかった.したがって本メカノクロミズムの機構は,1)すりつぶすことによって結晶に外的なエネルギーが加わりアモルファスへと相転移し,2)過剰のエネルギーによって比較的弱いスピロ炭素同士の結合が切れ,3)分子のパッキングが緩やかなアモルファス状態ゆえに分子構造が変化して準安定なビラジカル種が生成し,4)そのビラジカル種はアミノ基によって安定化されるとともに可視部に吸収をもたらし,5)有機溶媒と接触すると局所的に溶液となりビラジカルの再結合が起こる,というプロセスを経ていると推測される.
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