Research Abstract |
2-アルコキシ-2H-アゼピンと四塩化チタン(ルイス酸)との反応で得られる七員環カルボカチオンは非経験的分子軌道計算,核磁気共鳴法による実測データを検討したところ,陽電価が非局在化した6π電子系芳香族陽イオンであることがわかった。一方,炭化水素七員環陽イオンであるトロピリウムは,環構成原子は全てが炭素原子であることから極めて効率的に非局在化が起こっており,炭素陽イオンであるにもかかわらず,水溶液中ですら安定に存在することが分かっている。本研究における含窒素七員環陽イオンであるアザトロピリウムは,非局在化型陽イオンとはいえ,電気陰性度の大きい異節原子である窒素原子の存在が電子構造および反応性にあたえる影響は興味ふかい。このイオンをpH3程度の緩衝溶液中で生成したところ,水和に引き続く開環加水分解が起こり,5-ホルミル-ベンタジェン酸誘導体を効率よく生成することが分かった。このことは,アザトロピリウムは電気陰性度の大きい環内窒素原子により,π電子の非局在化が阻害され,共鳴安定化の程度が炭化水素類縁イオンにくらべて渡少していると推定される。 フェニルナイトレンからアゼピン環が生成する過程において,生成機構に関する新規な知見を得た。フェニルナイトレンが分子内挿入反応し双環性ベンゾアジリンとなり,開環してデヒドロアゼピンを生成したのち求核性溶媒に捕捉されてアゼピン誘導体を与えるという反応経路が推定されている。本研究において,0-アルキルフェニルナイトレンを出発物として用いたところ,デヒドロアゼピンが求核性溶媒をトラップして最終生成物に至る。また,生成物分布の温度依存性から,フェニルナイトレン,ベンゾアジリン,デヒドロアゼピン環に平衡が存在し高温では熱力学支配,低温では速度論支配の異なる生成物を与えることを実験的に証明した。
|