Research Abstract |
本年度は,前年度以前に合成した「水素結合部位を有する有機ラジカル分子」を用い,これらと数種類の「プログラム分子」を組み合わせることで,新規水素結合性分子磁性体の構築を目指した.前年度の報告で,プログラム分子が殆どの有機溶媒に不溶であるとの問題点を上げたが,本年度は混合溶媒の調整やpHの制御,加熱などの対策をとることにより,この問題を打開した.そこで,有機ラジカルやプログラム分子の種類,溶媒,pH,温度,結晶作製法をパラメータとし,数百種の条件下で結晶作製を行った.その結果,多種の単結晶の獲得に成功し,その磁気的性質を明らかにした.しかし,得られた結晶の殆どは低温まで常磁性的振舞いを示したことから,プログラム分子を介したラジカル間磁気相互作用は極めて小さいことが明らかになった.そこで,有機ラジカルとプログラム分子間の水素結合箇所に遷移金属イオンを導入し,ラジカル間相互作用の強化を試みた.加えて,金属イオンとして磁性イオンを用いることで,より複雑な磁気構造をもつ分子磁性体の構築を目指した.その結果,多様な磁性を有する単結晶の獲得に成功し,これらの磁気構造を解明した. 以上の結果,本プロジェクトの最終到達目標である「特異な磁気構造を有する分子磁性体の構築とそのスピン空間制御」に関して,概ね達成することができたと考えられる.加えて,本プロジェクトを遂行する中,高イオン伝導性を有する結晶など,興味深い材料も多く発見されたことから,今後,更なる研究の進展が期待できる.
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