Research Abstract |
金属酸化物薄膜の特性は,その結晶方位依存性から,配向性により向上する場合がある。ゾルゲル法のような溶液法による金属酸化物薄膜作製においては,用いる溶液中の金属成分の構造が,得られる薄膜の配向性に対して大きく影響する。これまで,層状チタン酸塩の透明コロイド水溶液が,非常に簡便な方法により室温で合成できることを示してきた。このような層状化合物は板状形状となりやすいため,配向塗布が容易であり,その層状構造に起因した配向性をもつ金属酸化物薄膜が得られやすい。また,水溶液であること,室温で合成されること,含まれる有機成分の燃焼温度が低いことなどにより,薄膜作製における環境負荷を小さくできることも,この溶液の特長である。しかしこれまでは,チタン酸塩についてしか合成を検討してこなかった。そこで,その層状金属酸塩の透明コロイド水溶液の合成法の汎用性を調べるために,ニオブ酸塩やタングステン酸塩を同様の手法で合成することを試みた。その結果,同じ合成法により層状ニオブ酸塩の透明コロイド水溶液が合成できることが分かった。また,そのコロイドの結晶構造も明らかにできた。その溶液を用いたゾルゲル法による薄膜作製では,ニオブ酸塩の層状構造に由来した配向性をもつ酸化ニオブ薄膜が作製できた。タングステン酸塩の合成では,同じ合成法では,層状化合物ではなくポリ酸が生成してしまったが,合成法に少し修正を加えることで,層状タングステン酸塩の透明コロイド水溶液が合成できた。これらの結果より,ゾルゲル法による配向性金属酸化物薄膜の低環境負荷な作製に適した層状金属酸塩コロイド水溶液が,少なくとも周期表の4~6族の元素の金属酸塩に対して合成可能であることが明らかになった。
|