Research Abstract |
切削工具用被膜としては,Tiをターゲット(陰極電極)にしたTiN膜が工業的に多く使用されてきた.しかしながら,TiN膜は耐密着性にやや劣る.そこで,研究代表者は,超硬合金母材の主成分であるWCに着目し,被膜にWを加えることで密着力を高めることが可能であると考え,ターゲットにタングステン(W)を加えたTi-W合金をターゲットに使用した新しいタイプの(Ti,W)N膜を開発した.この(Ti,W)N膜コーテッド工具で,SKD11(HRC60)を切削した結果,(Ti,W)N膜コーテッド工具の寿命時間は,(Ti,Al)N膜コーテッド工具に比べやや短命であった.これは,(Ti,W) N膜の密着力148Nは,(Ti,Al)N膜の73Nに比べ高いが,(Ti,W)N膜の硬さHV1970は,(Ti,Al)N膜のHV2710に比べ低いことが主因であることが分かった.このことから,金型鋼の切削においては,被膜の高硬度化による高アブレシブ性が必要であり,高密着性・高アブレシブ性に優れた被膜の開発が望まれている.本研究の目的は,高密着性・高アブレシブ性に優れた(Ti,W,Si)系被膜を開発し,この被膜特性を明らかにする. 本年度は,ターゲットにTi-W-Si合金を使用し,この合金ターゲットを用い,N2ガス,あるいはCH4の反応ガス雰囲気中で超硬合金を母材としてPVDコーティングを行い3種類の(Ti,W,Si)系被膜,すなわち(Ti,W,Si)N膜,(Ti,W,Si)(C,N)膜,(Ti,W,Si)C膜を形成させた.その結果,(Ti,W,Si)N膜については,従来のTiN,(Ti,Al)N膜に比べ,高硬度,高密着強度であった.さらに,(Ti,W,Si)N膜PVDコーテッド超硬工具でダイス鋼SKD11(HRC60)の旋削を行った結果,(Ti,W,Si)N膜PVDコーテッド超硬工具の摩耗進行は,(Ti,Al)N膜PVDコーテッド超硬工具の摩耗進行と同程度であり,この(Ti,W,Si)Nは切削工具用被膜として使用可能であることを明らかにした.
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