Research Abstract |
切削工具用被膜としては,Tiをターゲット(陰極電極)にしたTiN膜が工業的に多く使用されてきた.しかしながら,TiN膜は耐密着性にやや劣る.そこで,研究代表者は,超硬合金母材の主成分であるWCに着目し,被膜にWを加えることで密着力を高めることが可能であると考え,(Ti,W)N膜を開発した.この(Ti,W)N膜コーテッド工具で,SKD11(HRC60)を切削した結果,(Ti,W)N膜コーテッド工具の寿命時間は,(Ti,Al)N膜コーテッド工具に比べやや短命であった.これは,(Ti,W)N膜の硬さHV1970は,(Ti,Al)N膜のHV2710に比べ低いことが主因であった.このことから,金型鋼の切削においては,被膜の高硬度化による高アブレシブ性が必要であり,高密着性・高アブレシブ性に優れた被膜の開発が望まれている.本研究の目的は,高密着性・高アブレシブ性に優れた(Ti,W,Si)系被膜を開発し,この被膜特性を明らかにする.本年度は,バイアス電圧を変化させた(Ti,W,Si)N膜PVDコーテッド超硬工具でSC r 420Hの切削を行った結果,バイアス電圧-150Vの被膜が最も耐摩耗性に優れていた.次に,超硬ソリッドエンドミルによる側面切削への適応についても検討を加えた.すなわち,(Ti,W,Si)N膜エンドミルでSKD11の側面切削を行い,工具摩耗を調べた結果,(Ti,Al)N膜PVDコーテッド超硬工具の摩耗進行と同程度であり,この(Ti,W,Si)N膜はエンドミル用被膜としても使用可能であることを明らかにした.さらに,被膜を複層化させることによって,被膜特性の向上が期待できるので,中間層に(Ti,W)N膜を用いた[(Ti,W)N-(Ti,W,Si)N]膜エンドミルで,SKD11の側面切削を行い工具摩耗を調べた結果,切削速度2.5m/s以下で使用するのが望ましいことを明らかにした.
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