Research Abstract |
本研究は,非線形力学理論の分野における結合カオス系の集団同期現象の研究を基礎に,実システムにおいて生じるサブシステム間の情報伝送遅延を考慮した集団同期現象の解析と,その知見の制御工学への応用を目指している.伝送遅延と結合強度パラメータにより,結合ネットワーク系は完全同期や部分同期といった現象を生じる.そこで,本研究では,情報伝送遅延により生じるむだ時間と結合強度をパラメータとした遅延結合ネットワーク系の完全同期・部分同期の制御手法を導出し,システム全体のパターン形成の制御手法を開発することを目的としている.そのために,二つのサブテーマに従って研究を実施しているが,本年度は,(i)遅延結合システムの同期・部分同期のためのネットワーク構造と同期条件の導出,について研究を行った.まず,研究代表者ら用いている遅延結合の下で,同期不変多様体が同期誤差ダイナミクスの平衡点となるための条件を導出することで,遅延k時間と結合強度の二つのパラメータに課せられる必要条件を導出した.さらに,既存の同期条件の持つ保守性の緩和を検討し,新たな同期条件を導出した.既存の同期条件は,対象となるネットワーク結合系の同期誤差ダイナミクスが状態むだ時間システムとなることから,Lyapunov-Krasovskiiの定理に基づく,時間領域における安定性解析に基づく同期条件であった.しかしながら,これらの条件はLyapunov-Krasovskiiの定理がもつ固有の保守性により,保守性の高い結果しか得ることができない.本研究では,Chua回路のようにLur'e系として記述できるカオス系を対象として,周波数領域における安定条件である円板条件に基づく同期条件を導出している.得られた条件は,既存の手法に比べ,保守性が低く,Chua回路からなるネットワーク系においては,シミュレーション結果に近い結果を与えることを示した.
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