2009 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫の社会行動を統御する分子遺伝学的、生理学的、生態学的機構
Project/Area Number |
20570016
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柴尾 晴信 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 助教 (90401207)
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Keywords | 社会性昆虫 / 分子遺伝学 / 組織形態学 / 神経生理学 / 化学生態学 |
Research Abstract |
本研究は、社会性アブラムシをモデル系として、社会性昆虫類のコロニーにおける強調と制御の仕組みを理解することを目的とした。とくにコロニーメンバー間の化学コミュニケーションに着目し、アブラムシの兵隊階級による分業や社会行動の統御メカニズムを明らかにするために、分子生物学的、化学生態学的・神経生理学的研究をおこなった。社会性アブラムシは、繁殖に専念する生殖階級と利他的な社会行動をおこなう兵隊階級の二つの階級から構成される社会性昆虫である。兵隊は若いうちは掃除をおこない、年を取るともっぱら攻撃に専念するという齢差分業を示す。本年度は、昨年度に引き続き、社会性アブラムシにおける齢差分業の調節に関与する候補遺伝子の探索をおこなった。遺伝子の候補として、foraging遺伝子に着目し、この遺伝子が関与するサイクリックグアノシン-一リン酸(cGMP)/プロテインキナーゼG(PKG)依存性シグナル伝達経路が、兵隊の加齢に伴う非攻撃から攻撃への行動転換に及ぼす影響について詳しく解析した。foraging遺伝子がコードする、PKGの活性を上昇させるcGMPのアナログを若齢兵隊に経口投与した結果、攻撃性を示す個体の割合が明らかに増加することが確認できた。この結果は、アブラムシの兵隊における齢差分業に、foraging遺伝子が関わっていることを強く示唆する。そこで、foraging遺伝子のクローニングをおこない、兵隊アブラムシ体内における遺伝子の発現量の定量化を試みた。その結果、兵隊の日齢と遺伝子の発現量との間には明確な傾向は認められなかった。今回は兵隊の体全体における遺伝子の発現量を見たため、重要な差を見過ごした可能性かある。そこで、兵隊の脳の領域に注目して遺伝子の発現量を比較するための蛍光in situハイブリダイゼーション法の開発を試みた。現在までのところ蛍光シグナルを検出するには至ってないものの、今回の結果から、齢差分業の成立メカニズムに対して遺伝子レベルからアプローチをおこなうことが、社会性の成立・維持機構や社会性獲得の進化過程を理解する上できわめて有効であることが確認できた。
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