2010 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫の社会行動を統御する分子遺伝学的、生理学的、生態学的機構
Project/Area Number |
20570016
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柴尾 晴信 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教 (90401207)
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Keywords | 社会性アブラムシ / ハクウンボクハナフシアブラムシ / 兵隊階級 / 齢分業 / 化学コミュニケーション |
Research Abstract |
社会性アブラムシは、繁殖に専念する生殖階級と利他的な社会行動をおこなう兵隊階級の二つの階級から構成される社会性昆虫である。兵隊は若いうちは掃除をおこない、年を取るともっぱら攻撃に専念するという齢分業を示す。本研究は、社会性アブラムシをモデル系として、社会性昆虫類のコロニーにおける強調と制御の仕組みを理解することを目的とした。とくにメンバー間の化学コミュニケーションに着目し、アブラムシの兵隊階級による分業や社会行動の統御メカニズムを明らかにするために、分子生物学的、化学生態学的・神経生理学的研究をおこなった。最終年度である本年度は、これまでのデータの取りこぼしをチェックし、化学シグナルに対する兵隊階級の行動反応、触角応答、意思決定機構について定量的な補充実験をおこなった。その結果、(1)兵隊の仕事刺激に対する行動反応閾値が加齢とともに変化することで齢分業が生じること、(2)兵隊の日齢に沿った掃除から攻撃への仕事転換のタイミングが、天敵の存在を知らせるフェロモンや化学シグナルなどの環境条件に応じて可塑的に変化すること、(1)神経伝達物質であるオクトパミンやcGMPアナログの経口投与による、オクトパミンレベルの上昇およびサイクリックグアノシン-一リン酸(cGMP)/プロテインキナーゼG(PKG)依存性シグナル伝達経路の活性上昇が、共に行動の意思決定に影響することなどを明らかにした。とくに社会性昆虫類において知られる齢分業の調節に関わるforaging遺伝子がコードするPKGカスケードが、社会性アブラムシにおける兵隊の加齢に伴う非攻撃から攻撃への行動転換に関与している点は興味深い。以上の結果から、社会性アブラムシにおける兵隊階級の分業と社会行動の発現統御メカニズムが浮き彫りとなり、社会性の成立・維持機構や社会性獲得の進化過程を理解する上で深い洞察を得ることができた。
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