Research Abstract |
多くの分類群において,その種多様性は赤道付近で最も高く,北と南へ緯度が増すにつれて低下するというパターンが見られる.メダカ属(Oryzias)魚類も,その多くは熱帯に分布している.これら熱帯のメダカの特徴は,オスの派手な色彩や装飾的な形態にある.興味深いことに,日本に分布するメダカ(0.latipes)種内においても,低緯度の集団ほどオスの二次性徴の発現(=尻鰭と背鰭の伸長)が遺伝的に顕著で,性的二型の程度が大きいことが知られている.この性的二型の緯度クラインは,低緯度における強い性淘汰圧を反映していると考えられるが,二次性徴の強い発現には他の適応度形質への投資量の減少が伴うことが理論的に予測される.緯度の異なる3野生集団(青森市馬屋尻,新潟市鍋潟,および敦賀市樫曲)から採集されたメダカの稚魚(第二世代)を実験室の共通環境下で飼育し,尻鰭・背鰭の伸長と体サイズの増加(=成長)のスケジュールを比較した.その結果,低緯度のオスほど鰭の伸長が始まるタイミングが体サイズに比して早く,また伸長する速度(体サイズ比)も大きいことがわかった.しかし,低緯度のオスは成長が遅く,小さな体サイズで成長が頭打ちになる傾向にあった.これは,低緯度における強い性淘汰のもと,顕著な二次性徴が,成長への投資を犠牲に進化したことを示唆している.低緯度における強い性淘汰は種分化を促進し,ゆえに熱帯の高い種多様性の創出に貢献しているかもしれない.
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