2010 Fiscal Year Annual Research Report
魚類における保護者の性の決定因に関する研究-行動の潜在能力と制御機構からの検証
Project/Area Number |
20570022
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
坂井 陽一 広島大学, 大学院・生物圏科学研究科, 准教授 (70309946)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
国吉 久人 広島大学, 大学院・生物圏科学研究科, 講師 (60335643)
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Keywords | 保育行動 / 性的役割の可変性 / Dascyllus属 / スズメダイ科 / 脳下垂体 / 硬骨魚類 / 雌雄異体 / 性転換 |
Research Abstract |
前年度までにフタスジリュウキュウスズメダイ(以下フタスジ)において、通常はオスにのみみられる卵保護行動を、産卵後のメスが肩代りで実践しうること(保育潜在能力)を確認した。本年度はその現象がスズメダイ科魚類における普遍的な現象と解釈しうるのかの洞察を進める目的で飼育操作実験を実施した。フタスジはメスからオスへの性転換能力を有する魚種であり、雌雄同体性が肩代り保育の潜在能力の存在と関連している可能性も考えられた。そのため、本年度の実験では、ルリスズメダイ属の雌雄異体性の2魚種、ルリスズメダイ、レモンスズメダイを実験に使用した。雌雄ペアで飼育し、産卵直後にオスを産卵床から隔離し、その後のメスの行動を継続的に観察する実験を実施した。 その結果、1種では保育行動がまったく発現せず、すべての卵がメスによって食べ尽くされた。もう1種では保育行動が発現し、卵が孵化まで至った。ただしその保育行動の発現確率は極めて低いものであった。すなわち、ルリスズメダイ属2種はフタスジよりもメスの肩代り保育は起こりにくいものであった。ただし、メスにおける保育の潜在能力が雌雄同体種に限って存在するわけではないことが明らかとなった。いずれの魚種でも保育行動は、卵食を制止し卵のそばに滞在する、という単純なパターンから成るものであった。 スズメダイ科魚類は野外生態情報を基にオス単独保育タイプの生物群と考えられてきた。また、対象的な保育形態をみせる近縁魚類との系統関係から、そのオス単独保育をルーツとして両親保育およびメス保育へと魚類における保育形態が進化的に移行したとする仮説が支持されてきた。しかし本研究結果は、この進化の方向性が逆、すなわち両親保育を祖先形としてオス単独保育が進化したという可能性を提示するものであり、「魚類におけるオス保育形態の特異的な多さ」という生物学上の謎に関する議論に一石を投じうると考えている。
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Research Products
(2 results)