Research Abstract |
21年度は,トランスクリプタスで雌が父性の操作をしている発見の成果をさらに発展させるべく,いくつかの実験を行った.はじめに,β雄がα雄と雌の子供であるトリオを作り,そのトリオでの繁殖行動を観察した.鳥類の協同的一妻多夫でもそのような例もまれには観察されており,我々は,雌が息子であるβ雄に受精をさせないと予想していた.実際には,雌は非血縁のβ雄の場合と同様,楔形の巣でβ雄にも受精をさせた.また,α雄のβ雄に対する攻撃はさほど強くはなく,さらに,二回三回目の産卵になると,雌は楔形巣の奥でβだけに受精をさせた.この場合での,α雄のβ雄への攻撃は激しくなかった.現在詳細な関係について分析中である. この他雌の父性操作の確認実験を形状の異なる巣を用いて行った.結果は雌が父性の操作を行うために,産卵場所を巧みに選択していることを示すものである. また,これらの実験などを通して,我々は雌が操作しているのは単に父性なのではなく,「雌は雄の父性認識を操作している」との仮説を立てた.魚類でも雄は自分の子供の多さを何らかの指標で認識しており,遺伝的な自分の子供が多いと判断すると,子の保護への投資が高くなる.雌は雄の保護投資が最大になるよう雄を操作したいのであり,このため雄の父性認識の情報あるいは刺激を操作していると考えられる.この仮説は,世界でもこれまでも提案されてはおらず,検証結果は最先端の成果となる.昨年後半から,摺ガラスで作成した産卵巣での繁殖行動をビデオ撮影し,それをトリオとペアで比較する装置を開発してきた.22年度ではこれらを用いこの仮説を検証する.
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