Research Abstract |
クサフグの月周同調産卵リズムを制御する中枢機構を明らかにするために,本研究課題では,その細胞学的および分子的な研究基盤を確立することを目的とする。平成21年度は次の4つの点について研究を行った:1)神経葉ホルモン(VT, IT)産生ニューロンの同定,2)産卵リズム形成における松果体の機能の解明,3)フィールドにおける産卵行動の回帰性の検討,4)水槽内における産卵行動の観察。各研究で得られた成果は下のとおりである。 1) VT/IT産生ニューロンの同定:産卵行動の調節に関わると考えられるVTとITの産生ニューロンの脳内分布を免疫染色法により解析した。VTおよびIT免疫陽性細胞は,共に視索前核の大細胞性ニューロンであり,神経葉に投射して体液調節に関わると共に,脳内に投射して産卵行動を調節することが示唆された。 2) 松果体機能の解明:メラトニン合成の主要器官であり,生物時計としても機能すると考えられる松果体の働きについて解析した。メラトニン合成酵素(AANAT)遺伝子と4種類のPeriodサブタイプ遺伝子の部分配列を決定し,これらの遺伝子と4種類のメラトニン受容体サブタイプ遺伝子の発現レベルの日周変動と月周変動を解析した。AANAT, Period,メラトニン受容体の遺伝子の発現レベルは共に同期して,12もしくは24時間周期の概日変動をすることが明らかになった。また,血中メラトニンの測定条件を検討し,昼夜のリズムがあることが示唆された。これらの結果は,産卵リズムの形成に松果体が重要な役割を持つことを示している。 3) 回帰性の検討:熊本県富岡において,約700m離れた2カ所の産卵場で異なる色のカラーピンを用いて標識放流を行った。多くの個体が同じ場所に回帰したが,両方の産卵場に現れる個体が少数いることも分かった。 4) 水槽内行動観察:水槽の底面の半分に砂を敷き,残り半分には石で斜面を作った。その中に産卵期のクサフグを入れて,その行動をビデオ観察した。水槽内で産卵行動は見られなかったが,大潮の満潮前には石の斜面に集まることが分かった。フィールドの産卵リズムが水槽内でも維持されていることが示唆された。
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