Research Abstract |
本研究では,月周同調産卵回遊という特徴的な産卵行動を行うクサフグをモデルにして,産卵行動の発現を制御する脳内機構を明らかにするために,その制御機構の細胞学的及び分子的な基盤を確立することを目的とする。平成22年度は次の3点について研究を行った:1)松果体におけるPeriod遺伝子(per),メラトニン合成酵素遺伝子(aanat),メラトニン受容体遺伝子(mel)の発現の日周,概日および月周変動,2)松果体からのメラトニン分泌の日周および概日変動,3)産卵期に見られる水槽内集合行動のリズムに及ぼすバソトシン(VT)投与の影響。各研究で得られた成果は次のとおりである。 1)4種類のperサブタイプ遺伝子は,(主観的)明期にピークを持つ明瞭な日周および概日変動を示した。annat2の発現は暗期に著しく上昇し,明期に低下した。また,主観的暗期にピークを持つ約24時間周期の概日リズムを示した。4種類のmelサブタイプ遺伝子も明瞭な日周および概日変動を示した。特に,概日変動は15時間周期のリズムを示した。一日の内の同時刻に4日もしくは5日おきに1ヶ月間,松果体を採取して月周変動を調べた結果,perおよびaanat2の発現は月周変動は示さなかったが,melの発現は月齢5.4をピークとする月周変動を示した。これらの結果から,クサフグの松果体には15時間周期を刻む時計と月周時計が存在する可能性を示すとともに,メラトニン受容体の発現量の変動がクサフグの月周同調産卵リズムに重要な役割を持つことが示唆された。 2)初代培養した松果体からのメラトニン分泌量は,暗期に著しく上昇し,明期には急激に低下した。また,aanat2の発現パターンと同様に主観的暗期にピークを持つ約24時間周期の概日リズムを示した。 3)2ヶ月の産卵期間に,クサフグは大潮の日の満潮前に繰り返し斜面に集合した。産卵期を過ぎると集合行動は見られなくなった。集合行動の起こる前にVTを腹腔内投与しても,集合行動に変化は見られなかった。
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