Research Abstract |
平成21年度の研究で,次のような成果をあげた.(1) 南米原産のウーリーモンキー,ケナガクモザル,ジェフロイクモザルに寄生する蟯虫はTrypnaoxyuris atelisと同定していたが,昨年度のmtDNA Coxlに続いて18S rDNAも解読した結果,やはり一定の差があった.そこで形態を再精査したところ,交接刺に差異を認め,それぞれが別亜種を形成する可能性が示唆された.(2) 霊長類の糞便からの蟯虫をはじめとした小型寄生虫の検出方法,形態観察法,およびDNA塩基配列から推定される霊長類寄生蟯虫類の系統樹をCambridge University Press刊行の単行本Primate Parasite Ecologyに発表し,併せて霊長類寄生虫卵図譜を同書のappendixに掲載した.(3) 系統比較のためコウモリ寄生線虫RiouxgolvaniaのrDNA全域6530塩基の配列を解読した.(4) マレーシアのボルネオ島ダナムバレーの野生オランウータンから得られた蟯虫類を調べ, Pongobius属に2種が混在し,うち1種は新種であることを見出し,他の寄生虫と共にまとめて論文を投稿した.(5) インドネシア中部スラウェシに棲息するBunomys chrysocomusに寄生する蟯虫がSyphacia属の新種であることを発見し,命名記載した.(6) ヨーロッパの動物園で飼育された後,本来チンパンジーの分布しないビクトリア湖のルボンド島に導入され,定着したチンパンジー個体群の寄生虫感染状況を蟯虫類も含めてまとめて論文発表した.これらの寄生虫にはチンパンジー蟯虫Enterobius anthropopitheciのようにチンパンジー固有でチンパンジーとともに導入されたものと, Protospirura muricolaのように現地で新たに獲得されたものが混在していた.(7) 動物業者が飼育販売している霊長類(ワオキツネザル2頭,アカテタマリン2頭,コモンマーモセット2頭,スローロリス2頭,リスザル50頭,フサオマキザル18頭)を検査したが,蟯虫類を検出することはできなかった.
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