2010 Fiscal Year Annual Research Report
ショウジョウバエの生殖系列における幹細胞への発生運命決定機構
Project/Area Number |
20570213
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
浅岡 美穂 国立遺伝学研究所, 個体遺伝研究系, 助教 (40370118)
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Keywords | 幹細胞 / 幹細胞ニッチ / 生殖細胞 / ショウジョウバエ / 卵巣 / 始原生殖細胞 |
Research Abstract |
幹細胞は組織細胞を生み出す未分化な細胞で多くの高等動物組織において維持と修復に中心的な役割を果たしている。成体組織中では幹細胞は周辺にあるニッチ細胞により維持されているが、発生過程での幹細胞の形成機構については未だ不明な点が多い。我々はこれまでに、ショウジョウバエの卵子幹細胞は胚卵巣の前半部にある始原生殖細胞のみに由来することを明らかにした。これらの始原生殖細胞はニッチ細胞形成以前の幼虫期に卵巣前方で未分化状態のまま維持され、蛹期に形成直後のニッチ細胞に接着して生殖幹細胞となる。一方、胚卵巣後半部の始原生殖細胞は幼虫期に卵巣後方で配偶子形成過程を開始し、幹細胞を経ることなく卵細胞に分化する。以上のことは、ニッチ細胞形成以前の卵巣において前半部の始原生殖細胞を未分化な状態に維持しておくことが卵子幹細胞の形成に重要なことを示唆する。昨年度までに、我々は、卵巣前半部の始原生殖細胞を取り囲む体細胞の細胞膜上で発現する膜タンパク質Papが直下の始原生殖細胞を未分化状態に維持し、その結果、十分な数の卵子幹細胞の形成を補償することを明らかにして来た。本年度は、Papは卵巣前半部の始原生殖細胞がDppシグナルを受取り分化に必須なbam遺伝子の発現を抑える機構を安定化することによりこれら始原生殖細胞の未分化状態を維持することを明らかにした。Papは胚卵巣中からニッチ細胞形成前までは継続して卵巣前半部の始原生殖細胞と接する体細胞の細胞膜上で発現するが、ニッチ細胞形成以降は消失する。従って、Papはニッチシステム確立以前の卵巣で、卵子幹細胞に寄与する始原生殖細胞を未分化状態に維持するような一過的なニッチを形成し、卵子幹細胞形成を支えることが明らかとなった。類似の一過的なニッチはショウジョウバエの腸管幹細胞の形成過程でも観察されており、本研究で提唱されたニッチの概念は他の幹細胞形成過程にも共通して働く可能性が考えられる。
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Research Products
(2 results)