Research Abstract |
本研究ではゲノム情報を活用したポストゲノム解析を通して,ファイトプラズマの病原性に関与する遺伝子を同定するとともに,病徴発現に至るメカニズムを明らかにすることを目的としている.ファイトプラズマは,植物に葉化や叢生症状などユニークな病徴を引き起こす病原細菌であるが,ゲノム上には既知の病原性因子はコードされておらず,その病徴発現機構は不明である.ファイトプラズマは宿主細胞内に寄生し,また細胞壁を欠くことから,その分泌タンパク質は宿主細胞内において直接宿主因子と相互作用し,病原性発現に際して重要な役割を持つと考えられる.そこで,全ゲノム解読されたCandidatus Phytoplasma asteris, OY strain弱毒株のゲノムにコードされるタンパク質の中から,分泌シグナル配列を有するものを網羅的に探索し,28個の分泌タンパク質遺伝子を見いだした.次に,これらをウイルスベクターを利用してNicotiana benthamianaに発現させ,植物体の形態変化を観察した.その結果,側芽の増加及び萎縮を示す「てんぐ巣」症状を誘導する因子PAM765を同定した.次に,PAM765を恒常的に発現するシロイヌナズナ形質転換体を作出したところ,ファイトプラズマ感染植物と同様のてんぐ巣症状を示したことからPAM765をてんぐ巣症状誘導因子「TENGU」と命名した.また,この因子の作用機序を調べる目的で,TENGU形質転換体のマイクロアレイ解析を行い,TENGUの高発現条件下で特異的に発現変動する植物遺伝子群を調べたところ,オーキシン関連遺伝子群の発現レベルの低下が認められた.以上の結果は,ファイトプラズマはTENGUを植物宿主細胞内に分泌し,オーキシン経路を阻害した結果,てんぐ巣症状を誘導する新規の病徴誘導メカニズムを示唆するものである.
|