Research Abstract |
カイコガオス生殖腺の前立腺に部位に特異的に存在する精子成熟因子「イニシャトリン」タンパク質を精製した。精製された2種類のタンパク質は,N末端アミノ酸配列を決定したところ,決定された17個のアミノ酸残基は全く同一であるが,レクチンプロットから糖鎖の違いにより生じるものと考えられた。決定されたN末端アミノ酸配列は,すでに昨年度単離していた候補遺伝子(GenBank:AB485779)から予想されるアミノ酸配列中に認められかつ,この遺伝子を大腸菌に導入し,多量に発現させ,精製したタンパク質は貯精のうに含まれる精子に添加すると運動を誘導させた。以上の結果を総合することにより,イニシャトリン遺伝子の単離ができ,これによりその一次構造を明らかにできたと判断した。なお,このタンパク質のアミノ酸配列中には,serine proteaseの3つの触媒残基が見出され,serine proteaseの特徴であるPre, Pro, mature領域からなる3つのドメインからなる構造が予想された。 前立腺からの精製イニシャトリンおよび大腸菌発現イニシャトリンを用いて,酵素学的性質を検討した。基質特異性の調査により,この酵素はserine proteaseの一種であり,かつイニシャトリンの代わりに精子成熟因子活性を有するTrypsinと同様に基質ペプチド中のArg残基のC末端側を分解するが,特に2つのArgが連続して存在する基質に特異的に反応するユニークな性質を有していた。すなわち,イニシャトリンはTrypsin様serine proteaseではあるが,精包内で生じる特異的なArg生成反応系にとって,好都合な特異性を有していることが明らかとなった。
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